密蔵院・名取住職へのインタビュー

江戸川区鹿骨(ししぼね)にある真言宗豊山派の寺院「もっとい不動 密蔵院」。
愛らしいお地蔵様のイラストが入った御朱印でも広く親しまれているお寺です。
住職を務める名取芳彦(なとり・ほうげん)さんは、「むずかしくない仏教」をテーマに数多くの書籍を執筆されており、著作の累計発行部数は100万部を突破。ベストセラー著者としても知られています。
今回は名取住職に、御朱印に込めた想いや密蔵院の見どころ、そして著書を通じて伝えたいことについて詳しくお話を伺いました。
1958年 東京江戸川区生まれ。
大正大学を卒業後、英語教師を経て、江戸川区鹿骨 元結不動密蔵院住職に。
・真言宗豊山派布教研究所研究員
・真言宗豊山派布教誌『光明』編集委員
・豊山流大師講(ご詠歌)詠匠
主な著書
『心が穏やかになる 般若心経のおしえ』(ナツメ社)
『グズを直す本』(三笠書房)
『気にしない練習』(三笠書房)
『60歳を過ぎたら面倒ごとの9割は手放す』(アスコム)
『お坊さんが答えます!すーっと悩みが消えてなくなるコツ』(あさ出版)
『チコちゃんと学ぶ チコっとブッダの言葉』(河出書房新社)
『ニャンと空海』(宝島社)
御朱印に関して
御朱印は古き良き日本を目指す「接点」の一つ
――かわいいイラストが描かれる御朱印が素敵です。御朱印帳への「直書き」をお願いできる時間は決まっていますか?
名取住職:
私がいる時ならば大丈夫です。ただ、外出している時もありますので、そういう時は「書き置き(紙)」になります。
どうしても直書きを希望される場合は、事前に電話をして確認するか、帳面を預けて後で取りに来ていただくかですね(郵送は行っていません)。
――急な法事などが入ることもあると思いますが、予約は必要ですか?
名取住職:
基本的に予約をする場合には、前日に電話いただくようお願いしています。1週間前にお電話いただいた場合でも、前日にもう一度お電話いただくことにしています。
なぜなら「今のところ空いてます」とは言えても、急にお葬式が入る場合があるからです。こればかりは確約できないんですよね。
――お寺ならではのご事情ですね。
名取住職:
はい。密蔵院は檀家が250軒あるんですが、それは親戚が250軒いるのと同じですから。親戚で何か不幸があれば飛んでいくでしょう?
職員がたくさんいるお寺ならいいのですが、密蔵院は完全に家族だけでやっていますので。
だから「1週間後」って言われても、「悪いけど前日にもう1回電話して確認してください」とお伝えしています。
「その日の気分」と「人を見て」書く言葉
――前回、素敵なイラスト入りの御朱印をいただきました。このイラストの絵柄はどれくらいの頻度で変わるんですか?
名取住職:
気分です。その日の気分で(笑)。
――(笑)。前回いただいた御朱印のお言葉は、「裏も表も紅葉(もみじ)・・」でした。
名取住職:
「裏を見せ 表を見せて 散る紅葉」というのは、江戸時代の僧侶・良寛が人生の最後に残したとされる句です。「人間には表も裏もあるけど、みんなあなただよ」という意味ですね。
――その日の気分や時期だけでなく、御朱印を求める「人」を見て言葉を選ぶこともあるんですか?
名取住職:
路上詩人じゃないですけどね(笑)。直感でその人を見て決めることはあります。
玄関に来て「おはようございます」「御朱印お願いできますか?」っていう、その人の人となりって大体分かるじゃないですか。「傲慢な人だな」とか「生き生きしてるな」とか。
だから、ゴシュインジャーさん(筆者)みたいな人は、もう何書いても絶対大丈夫だって分かってる(笑)。
――ありがとうございます(笑)
名取住職:
ただ、伏し目がちな人であれば、勇気づけるような言葉になるだろうし。
そんなふうに言われない限り書かないので、通常はお地蔵様を表す梵字(ぼんじ)を入れます。
もちろん、「こういう言葉を書いてください」とリクエストがあれば書きますよ。その場合は「書いて欲しい」と伝えてくださいね。
――「書いていただけるとお聞きしたんですけども、お時間はありますか?」という風に聞けばいいんですね。
名取住職:
そうですね。「言葉書いてくれますか?」と言ってくだされば大丈夫です。
特に希望がない場合は、サンスクリット語(梵字)を入れさせていただきます。

神社とお寺で御朱印帳はわける?

――「神社」と「お寺」で御朱印帳を分けてくださいという寺社もありますが、密蔵院さんではどうですか?
名取住職:
恐らく気にするのは神社側ではないでしょうか。お寺側は歴史的に「神仏習合」だったので気にしません。私の場合はノートにだって手帳にだって、何にでも書きますよ(笑)。仏教、特に般若心経は「こだわるな」という教えなので。
「分けるべきだ」というこだわりから離れれば心穏やかになれる、というのが仏教の本質ですから。
――なるほど!
名取住職:
ただ、礼儀として「分けてます」と言った方が、相手に対して誠実かもしれません。
「分けるべき」というのは仏教的ではないですが、「分けた方がトラブルにならなくていいよね」という考え方はあると思います。
密蔵院の「見どころ」について

――バス停眼の前にある閻魔(えんま)様が印象的ですが、いつ頃からいらっしゃるんですか?
名取住職:
30年ぐらい前ですかね。
私が生まれ育った実家のお寺(東小岩の善養寺)は境内が広くて、毎日子供が遊んでいるようなお寺でした。境内には日本一大きな松(国の天然記念物:影向の松)があって、菊の大会の時には一ヶ月で約10万人の人が訪れるようなお寺でした。
でも、結婚して密蔵院に入った時は120年間住職がいない寺で、檀家以外誰も入ってこない「入りづらい」お寺だったんですよ。
――そうだったんですね。
名取住職:
境内に入ってきてくれれば、いろんな仏様と縁を結んでもらえるのに誰も入ってこない。それで、お寺でコンサートなどのイベントもやったけど、やっぱり入ってこない。
それなら「じゃあ、こっちから出ていく!」って思って(笑)。外からしか拝めない、お寺に背中を向けてる仏様を作ろうと考えたんです。
――「こっちから出ていく」っていうのが斬新ですね(笑)。なぜ、閻魔様だったんですか?
名取住職:
何の仏様にしようか考えていた時に、ちょうどニュースである政治家の方が国会答弁をしていて、誰が聞いてもわかるような苦しい嘘を並べているのを見たんですよ・・。「そうだ、閻魔様に登場いただこう」と(笑)
作る際は女子美大の先生2人が手を挙げてくれまして。ただ「住職、私たち実在しないものを作ったことがないんです」って言って、資料を集めて作ってくれたのがあれなんです。
――そんなエピソードが・・。あの閻魔様ができてから、お寺に変化はありましたか?
名取住職:
それまでは誰も知らない寺だったけど、「あ、閻魔様のお寺ね」って言われるようになりました。
保育園帰りのお母さんと子供が前で止まって、「嘘つくとね、この閻魔様に叱られるよ」って話しているのを見かけます。そういう教えを説く機会になっていて、すごくいいなって思いますね。新小岩駅とかでタクシー呼んでも「閻魔様」って言えば、全員知ってるんですよ。昔は住所言わなきゃ行けなかったんですけど。
でも、本当はお不動様がご本尊なのでご本尊さまを宣伝しなきゃいけない。さらに悪いことに、住職の私が有名になっちゃってるので、なおいけないんですよ(笑)。御本尊を知ってもらうということが出来ていない(笑)。

名取住職の著書『気にしない練習』に関して
現代人の悩みと「小さな悟り」。
――名取住職の著書『気にしない練習』が50万部を突破したそうですね。
名取住職:
この本では私は一言も「信仰」や「仏様を信じなさい」なんてことは一言も書いてないんです。というのも、私自身が仏像になっている仏様の存在を信じてないからです(笑)。
私は仏教は「教え」であって、いつでもどんなことがあっても「心穏やかでいたい人」のために特化して説かれているコンテンツだと思っているんですね。
――裏を返せば「心穏やかじゃない人」が多いということでしょうか?
名取住職:
そうでしょうね。「雨降ってるよ・・」とか、天気一つでイラッとする人もいるじゃないですか。でも天気に文句言ったってしょうがない。
一方、「寒いなぁ。でも去年彼氏からもらったマフラー付けられるぞ」って喜べる人だって大勢いるんですよ。物の捉え方一つで、「眉間に皺(しわ)」も寄るし、「ウキウキ」もする訳です。
――確かに同じ出来事が起こっても捉え方一つで意味が全く変わってきますね。
名取住職:
仏教は「穏やかでいたい」と思う人のためのものなので、「穏やかじゃなくていい」という人にとっては必要ないです。
毎日株価が乱高下しているのが面白いんだよ、っていう人にとって仏教はいらない。だけど、「穏やかになりたい」と願う人には、仏教には「お楽しみ袋」のような教えが詰まっているので、その知恵をお伝えしたいですね。
――『気にしない練習』がまさに「お楽しみ袋」のような楽しい知恵が詰まった本ですね。
名取住職:
あ、あと、『気にしない練習』ではありますが、実は「気にした方がいい人」用にも書いてるんですよ。
「あなたは気にしてないかもしんないけど、これは気にしないと、そのうち心穏やかじゃなくなるよ」「孤立するよ」っていう意味でも書いているんです。
――ちなみに書籍のタイトルは出版社が決められたんですか?
名取住職:
はい、印刷の2週間ぐらい前に最終決定されるんですよ。
だからもうそれを受けてから「はじめに」を書かなきゃいけない(笑)。だって、タイトルに合わせた内容を書かなきゃいけないから。
――急ピッチですね!
名取住職:
「決まった」って連絡があったその日に書いて、3、4回校正をかけて出すみたいな。まあ、それも面白いんですけどね。
最初は「何だよー」って思いましたけど、私の好きな言葉の一つに「楽しむことはできるはず」っていうのがあるんです。
急ピッチで原稿仕上げなきゃいけないのは、楽ではないですけど、「それだって楽しむことはできるはずだ」と思いながらやってますね。
――その状況でも楽しむというのは、まさに先ほどお話いただいた「捉え方一つで心が変わる」という例ですね!「気にしてしまう人」も捉え方を変えると良いんですね。
名取住職:
やはり「相手に迷惑なんじゃないか」「自分がどう見られているか」をすごく気にする方が多い。
そういった方に改めて私が伝えたいのは、「実はそんなにあなたのことを見てる人、あんまりいないんですよ」ってことです。人は恋愛関係でもない限り、誰か特定の人のことを1日10分以上考えてることはない。だから「見られてる」って思ってるのは自意識過剰なわけです。
――確かに。人のことを1日10分以上考えることなんて滅多に無いですね。それでも「気にしてしまう」人がいたら、、
名取住職:
自分を肯定し続けなきゃだめでしょうね。「笑顔で挨拶ができる」といった小さな成功体験でも自分を認めていく。そのためには、失敗して「変わる」ということも必要です。
ちなみに、私の今の1番の目標は、二日酔いからの脱出です(笑)
――笑。お酒がお好きなんですか?
名取住職:
いや、お酒が私を好きなんですけどね(笑)。
仏教でいう「輪廻(りんね)」っていうのは「迷いを再生すること」なんです。私が二日酔いをし続けてる限り、私は二日酔いを輪廻し続けるわけです。「またやっちゃった」って。
だから、とことん失敗して、もう2度と失敗しないようになれば、それについては「解脱(げだつ)」したってことになる。これが「小さな悟り」です。
――「小さな悟り」ですか
名取住職:
自分の心の乱れに気がつくことです。「またやっちゃった」と気づいて、「なんとかしなきゃいけない」って思わない限りは無理です。「なんで怒っちゃいけないの?」と言っている人は、一生心穏やかになれないですね。
――ちなみに、よく飲むお酒は何ですか?
名取住職:
地方へ講演に行くと、地元の老舗で地酒をご馳走になることが多いんです。その土地へ行って地酒を飲むというのは、その土地の空気と水とお米を褒めることになる。
だから土地の方がすごく喜んでくださるんです。なのでそこでしこたま飲むと、帰ってきて1週間ぐらいになるとそのお酒がドーンと届くっていう(笑)。「こないだはこれだったけど、今回は大吟醸」みたいな。ありがたいです。そうやって美味しいお酒を飲む「法話の会(実質飲み会)」も2ヶ月に1回やってますよ(笑)。
お寺という「場」の力と写仏の魅力

――先ほど本堂でお参りさせていただきましたが、やはり心が落ち着きますね。
名取住職:
本堂という「場」が、やっぱり祈りの場としての磁場を持ってる気がしますね。これはデニーズやディズニーランドじゃ無理なんですよ(笑)。何百年も人々が祈りを捧げてきた集積の磁場がある。時計を見ようとも思わない、日常とは違う時間が流れている。
例えば秋になって銀杏(いちょう)の葉が落ちるのを見て、「ああ、葉っぱが本来持っている黄色い色が出てきたんだな、人生と同じだな」と感じたり。その感性の感度が自然に上がるのが、お寺が持っているポテンシャルです。

――密蔵院さんでは定期的に「写仏の会」が開催されていますね。まだ経験されていない方に、わかりやすく写仏の魅力を伝えていただけますか?
名取住職:
筆でなぞるだけで簡単です。仏様の姿を筆で通して自分の心にダウンロードできるわけですよ。
仏様が秘仏だったりすると厨子(ずし)の中にいらっしゃって、イメージがわからない。けど、写仏やってる人たちはみんな書いたことがあるのでイメージできる。視覚化出来ちゃうのが良い点です。
あとはやっぱりあの時間ですよね。集中してなぞっている間は心穏やかに過ごせます。
――私も体験させてもらいましたが、線の一本一本に集中しますよね。
名取住職:
現代人がなかなか持てない、一つのことに集中する時間。それがマインドフルネスや、日常では繋がらない回路が繋がる「アハ体験」に繋がります。
もちろん「編み物」とかでも良いんですよ。とにかく、集中してやる時間を持てるようになると心が穏やかになります。
――私も終わった後に頭がスッキリしていました。
名取住職:
お寺は「生きるための話」をする場所であり、心穏やかに生きていくための道場です。悩んでいる時は、境内のベンチで座ったり、本堂の薄暗い中で手を合わせて目を閉じたりして、情報を遮断して自分と向き合うといいですよ。
今まで分からなかったことが、突然「あっ、そうか!」とひらめき、理解できる瞬間のこと。
快感物質であるドーパミンが放出されることで、脳が若返り、記憶力や学習意欲の向上につながるとされる。
密蔵院周辺の魅力
――密蔵院周辺のおすすめスポットはありますか?
名取住職:
この辺りは小松菜発祥の地なので、小松菜農家さんが多いですね。
あとは歩いて10〜15分のところに「春花園盆栽美術館」があります。
海外からも注目されていて「一億円の盆栽」があったり、盆栽をチェーンソーで切ったりドリルで穴開けたりしながら、パフォーマンスとして見せてくれます。ここで修行したいっていう外国人もたくさんいるようです。
それから、私の実家の「善養寺」にある「影向(ようごう)の松」。「影に向かう」って書くんですが、これ仏教語で「神や仏が姿を現す」っていう意味なんです。これは日本一の松で国の天然記念物です。見る価値はありますよ。
| 密蔵院の御朱印情報 | |
| 御朱印 受付時間 | 9:00〜16:00 名取住職の晩酌が始まる前まで・・(^^) *最新情報は公式サイトなどでご確認ください。 |
| 公式サイト | ■密蔵院 公式サイト |
今後の活動について
参拝者へのメッセージ

――最後にこれから密蔵院へ参拝予定の方へ一言お願いします!
名取住職:
初めての方でも、裸足や露出が多い服装を避けていただければ、どなたでも本堂でお参りいただけます。
仏様を身近に感じながら、穏やかな時間を過ごしていってくださいね。
――インタビューのご協力ありがとうございました!
まとめ
名取ご住職のお話はとってもおもしろくて、あっという間に時間がすぎてしまいます。
江戸川区や鹿骨(密蔵院がある場所)についても詳しく教えていただき、江戸川区が大好きになりました^^
参拝帰りには、小松菜直売所にも行ってみてくださいね🎵






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